お墓は長男が継承するものだと教えられていたご主人は、
お墓は必要ながら子供は娘さんだけで後継ぎが居らず、
お墓を建てても途絶えてしまうのではないかという心配を長年抱えていたそうです。
更に娘さんは嫁いで姓も変わっており、
夫婦二人だけが入るお墓しか建てられないものと考えていました。
また、一方で、万一の時は九州の実家のお墓にでも納めてもらえばよいとも考えていましたが、
既に長兄も亡くなり、甥っ子が墓守をしているが実家とも以前のような交流もなく、
今更頭を下げて世話を頼むのも気が引けると日々悩んでいたそうです。
嫁いだ娘さんには具体的な話や相談を出来ないままに、
「いずれは誰かが何とかしてくれるだろう」と、
もうなるようになれの気持ちだったのだそうです。
ある日、娘夫婦とお孫さんが遊びに来ました。
中学三年生になるお孫さん(男)が学校でお墓参りをテーマにした授業があり、
お墓や先祖に初めて興味を持った孫から、
「おじいちゃん、何で家はお墓参りに行かないの?」
と聞かれて、「九州は遠いからね」と誤魔化しましたそうです。
孫は友達同士でもお墓参りの話をしていたようで、
「○○くんの家はいつもお墓参りに家族全員で行っているみたいだよ」
「どうしてお墓参りに行くの?何のため?」
とも聞かれて、「まだ誰も死んでないから」と返すしかありませんでした。
ご主人もお墓について悩んでいたこともあったので、とても心苦しく言葉に詰まったそうです。
その様子を見ていた娘さんが、
「おじいちゃんお墓が出来たら一緒にお墓参りに行こうね」
とその場を和ませてくれたのでした。
ご主人としても良い機会と思い、
後日、娘さんには自分の考えを伝えることにしました。
娘さんにいざ相談してみると、
予想していた「お墓を建てても守れないから困る」との返答ではなく、
「できれば一緒のお墓に入りたい」と言われてとても驚き、
そして同時にとても嬉しかったのだそうです。
救われた思いのご主人は『両家墓』のことや、『永代供養』のこと等を熱心に色々と調べて、
実家のお墓のように大きくて立派なお墓は建てられないが、
今風のお墓を建てて娘さんが継承しやすい形にしたいと考えたのです。
墓所選びから石材の色や形状も、娘さんに相談しながら進めていきました。
やっと墓所も墓石も決まったのですが、
どのような文字を正面に彫刻すべきかが最後まで決まりませんでした。
立てる予定のお墓が今風の墓石だったので、
『ありがとう』
『やすらぎ』
『感謝』
『絆』
『素晴らして旅』
等、様々な候補が出ていましたが決まらず、悩んでいました。
すると石材店の担当の方から、
「自署(自分の肉筆の書)で彫刻ができるので、
お孫さんの書いた字などでの彫刻はいかがですか?」
と勧められ、
お孫さんが小学生の時に賞をもらった『ありがとう』という文字を使用して彫刻しようと決めました。
娘を嫁に出した男親としては、
娘夫婦とお孫さんに逆に『ありがとう』という気持ちで一杯となりました。
その墓石の完成までに、それぞれの実家のお墓からそれぞれの土(依り代)を送ってもらい、
ついに思いがけずにご先祖をお祀りした立派なお墓が完成したのでした。
開眼(入魂)式には娘夫婦に孫も呼び、
「一緒にお墓の前で撮った記念写真が今となっては私の一番の宝物です」
と、うれしそうにおっしゃいました。
お孫さんの書いた『ありがとう』の文字の彫刻は見事に出来上がり、
ご主人の奥様もとても感動されたとのことです。
一時は考えるのも面倒になって、先送りにしていたのに、
お孫さんから問われたことがきっかけとなり、
娘さんとも話ができて、ご主人が思ってもいなかった結果となったことに大変に満足されていました。
今では、自分が建ててご先祖が眠るお墓に、
お孫さんを連れて墓参りに出かけることが一番の楽しみとなっているというお話でした。